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中村 貞以

1948

黒い猫を左腕で抱え、右腕を支えにやや膝を崩し、少女が座している。身体と衣装を描き分ける適確な線描、繊細なレースの紋様から透かし見える皮膚の赤みの描写など、技巧についての破綻はほとんど見出し得ない。抑制された色彩が清楚な印象を強めている。モデルは作者の娘青子。さて、父親は愛娘を汚れなく清らかであれと願い、本図において彼女を末永く自らの庇護の下に置いておきたいと表明しているのだろうか。父親の感情についてのそんな陳腐な思い込みに疑念を挟ませるのが、娘の抱く黒猫である。猫は少女と別の方向に視線を投げかけている。少女はそれを抱え込んでいることに少しくたびれ始めている。私たちが黒猫に対して感じるような、気まぐれ、意地の悪さ、神秘性などは、この少女の外見とはかけ離れたものだ。父親は、成長するに従って少女が外に放つであろう異質な面を黒猫に象徴させて、娘の現在の姿とともに凝視しているのである。風俗描写に重きを置くあまり、人物像としては類型化しがちな美人画であるが、中村貞以はそのような傾向に抗して、描かれた女性の人間性までを表現しうるような美人図を模索した。(R.N.)